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東京高等裁判所 平成9年(ネ)5559号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  別紙物件目録記載の各不動産を別紙不動産分割目録記載のとおり分割する。

2  原判決別紙株式目録記載の各株式を原判決別紙株式分割目録記載のとおり分割する。

3  第1項記載の共有物分割の裁判が確定したときは、控訴人は、被控訴人らに対し、別紙物件目録記載三1ないし4、6ないし9四5ないし13及び五2ないし6の各不動産につき、共有物分割を原因とし、各被控訴人の共有持分を各三分の一とする所有権移転登記手続を、別紙物件目録記載三5及び四14の各不動産のうち控訴人の共有持分各一五分の九につき、共有物分割を原因とし、各被控訴人の共有持分を各一五分の三とする共有持分移転登記手続をせよ。

4  第2項記載の共有物分割の裁判が確定したときは、控訴人は、被控訴人らに対し、原判決別紙株式分割目録記載一の株式につき、各株式ごとに記載された株式数の株券を引き渡せ。

5  控訴人は、各被控訴人に対し、それぞれ金一八〇二万六二五〇円及び内金五八六万五四八四円に対する平成八年一〇月三日から、内金一四三万二九七七円に対する平成九年二月六日から、内金一〇七二万七七八九円に対する平成九年三月四日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6  控訴人は、各被控訴人に対し、それぞれ平成八年一〇月一日から本判決確定まで一か月金一三万〇六二五円の割合による金員を支払え。

7  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その一を被控訴人らの、その余を控訴人の各負担とする。

三  この判決は、第一項5及び6に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二(原判決別紙株式目録六記載の株式に関して)

1  主位的

原判決別紙株式目録六記載の株式に関する被控訴人らの請求を棄却する。

2  予備的

(一) 控訴人が被控訴人らに対し民法一〇四一条所定の遺贈の目的の価額弁償として裁判所認定の金額を支払わなかったときは、原判決別紙株式目録六記載の株式を原判決別紙株式分割目録記載のとおり分割する。

(二) この分割の裁判が確定したときは、控訴人は、被控訴人らに対し、原判決別紙株式目録六記載の株式のうち二三五株分の株券を引き渡せ。

三(別紙物件目録記載の各不動産に関して)

1  主位的

別紙物件目録記載の各不動産(ただし、同目録記載三5及び四14の各土地についてはそのうちの共有持分一五分の七)はいずれもこれを競売に付し、その売得金より競売手続費用を控除した金額を八分し、控訴人五、被控訴人ら三の割合で分割する。

2  予備的

(一) 別紙物件目録記載の各不動産(ただし、同目録記載三5及び四14の各土地についてはそのうちの共有持分一五分の七)を、原判決別紙不動産分割案目録記載四のとおり分割する。

(二) この分割の裁判が確定したときは、控訴人は、被控訴人らに対し、原判決別紙不動産分割案目録記載四の被控訴人らが取得すべき不動産につき、共有物分割を原因とし、各被控訴人の共有持分を各三分の一とする所有権移転登記手続をせよ。

四(原判決別紙株式目録一ないし五記載の株式に関して)

原判決別紙株式目録一ないし五記載の株式は、控訴人が取得する。

五 被控訴人らのその余の請求を棄却する。

第二  被控訴人らの請求の趣旨

一  別紙物件目録記載の各不動産(ただし、同目録記載三5及び四14の各土地についてはそのうちの共有持分一五分の九)を原判決別紙不動産分割案目録記載三のとおり分割する。

二  原判決別紙株式目録記載の各株式を原判決別紙株式分割案目録記載二のとおり分割する。

三  控訴人は、被控訴人らに対し、

1  別紙物件目録記載三5及び四14の各土地の共有持分一五分の九につき、

2  同目録記載三8、五の各土地につき、

3  同目録記載二1の土地につき、原判決別紙根抵当権等目録記載(1)の根抵当権設定登記の、別紙物件目録記載二2の建物につき、原判決別紙根抵当権等目録記載(2)の根抵当権設定登記の、別紙物件目録記載三1ないし4、6及び7の各土地につき、原判決別紙根抵当権等目録記載(3)の抵当権設定登記の格抹消登記手続をした上、

それぞれ、共有物分割を登記原因とし、各被控訴人の共有持分を各三分の一とする所有権移転登記手続をせよ。

四  控訴人は、被控訴人らに対し、原判決別紙株式目録記載五の株式のうち二五五〇株の株券及び同目録記載六の株式のうち二三六株の株券をそれぞれ引き渡せ。

五  控訴人は、被控訴人らに対し、金六八三〇万三八一二円及び内金五四〇七万八七五〇円に対する平成八年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  控訴人は、被控訴人らに対し、平成八年一〇月一日から本判決確定まで一か月金三九万一八七五円の割合による金員を支払え。

七  四ないし六項につき、仮執行の宣言

第三  事案の概要

本件は、被控訴人ら及び控訴人の母である志村ミ子からの相続並びに被控訴人ら及び控訴人の父である志村文藏の控訴人に対する財産全部の包括遺贈に対する被控訴人らの遺留分減殺請求権の行使の結果共有となった財産のうち、不動産及び株式について現物分割を求めるとともに、分割により取得することになる不動産及び株式について移転登記及び株券の引渡しを求め、かつ、共有持分権に基づき、控訴人が右不動産の一部を賃貸して収受した賃料について、不当利得を理由にその返還を求めているものであり、原審裁判所は、不動産及び株式について現物分割を認めるとともに、不当利得返還請求についても概ねこれを認容したことから、これを不服とする控訴人が控訴したものである。

一  争いのない事実等(認定事実には証拠を掲げる。)

1  志村文藏(明治二七年八月五日生。以下「文藏」という。)と志村ミ子(明治二七年八月二二日生。以下「ミ子」という。)は、大正一三年六月二六日に婚姻した夫婦であり、被控訴人森脇美佐子(昭和三年五月二二日生、長女)、被控訴人城戸洋子(昭和四年一二月三日生、二女)、被控訴人志村建世(昭和八年五月一八日生、三男)及び控訴人(大正一五年五月一六日生、二男)は、いずれも文藏とミ子の実子であり、志村幸世(大正九年一二月二日生。以下「幸世」という。)は、文藏とミ子の養子である。

2  ミ子は、昭和四八年六月二四日死亡し、その遺産である別紙物件目録記載三5及び四14の各土地につき、文藏が一五分の五、被控訴人ら、控訴人及び幸世が各一五分の二の割合により相続した。

3  幸世は、昭和五九年二月八日死亡し、その遺産である別紙物件目録記載三5及び四14の各土地の持分一五分の二は、文藏が相続した。

4  その結果、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地については、文藏の持分が一五分の七、被控訴人ら及び控訴人の持分が各一五分の二の割合による共有関係が成立した。

5  文藏は、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地についての一五分の七の持分のほかに、別紙物件目録記載一1ないし7、二1、2、三1ないし4、6ないし9、四1ないし13、15ないし17、五1ないし6の各不動産(以下、以上の持分及び各不動産を併せて「文藏所有不動産」といい、別紙物件目録記載の各不動産を併せて「本件不動産」という。ただし、同目録記載二2の建物については、死亡時において建築中であり、建築請負契約における注文者としての地位にあった。)及び原判決別紙株式目録記載の各株式(以下「本件株式」という。)を所有していた(一部争いのあるものにつき甲七の一)。

6  文藏は、昭和五七年二月二六日、東京法務局所属公証人瀬戸正二作成昭和五七年第一〇五号遺言公正証書により、文藏所有不動産及び本件株式を含む財産全部を控訴人に包括して遺贈する旨遺言した。

7  文藏は、昭和五九年一〇月二七日死亡し、相続が開始した。

8  文藏の相続人は、被控訴人ら三名及び控訴人の合計四名である。

9  被控訴人らは、文藏の相続財産について各八分の一の遺留分を有しているところ、控訴人に対し、昭和六〇年二月二一日到達の内容証明郵便によって遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

10  その結果、本件不動産のうちの文藏所有不動産及び本件株式については、被控訴人ら三名につき各持分八分の一、控訴人につき持分八分の五の各割合による共有関係が成立し、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地のうち文藏所有不動産に含まれない各一五分の八の持分については、被控訴人ら三名及び控訴人がミ子から相続した各一五分の二の持分を有することから、結局、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地については、被控訴人ら三名につき持分各一二〇分の二三(ミ子から相続した一五分の二の持分に文藏の一五分の七の持分に八分の一を乗じたものを加えたもの)、控訴人につき持分四〇分の一七(ミ子から相続した一五分の二の持分に文藏の一五分の七の持分に八分の五を乗じたものを加えたもの)の各割合による共有関係が成立した。

二  争点

争点は、原判決「事実及び理由」欄第二の二「争点」記載のとおりであるから、これを引用する。

三  当事者の分割希望案

当事者の分割希望案は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」欄第二の三「当事者の分割希望案」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九頁一〇行目の「本件不動産」の次に「(ただし、被控訴人らが「本件不動産」という場合、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地については、控訴人がミ子から相続した一五分の二と文藏から遺贈を受けた一五分の七を合わせた一五分の九を意味するものであり、以下においても同様である。)」を加える。

2  同一三頁六行目の「別紙不動産分割案目録記載四のとおりの」を「本件不動産のうちの文藏所有不動産について、別紙不動産分割案目録記載四のとおり分割し、本件株式についてはすべて控訴人の取得とするとの」と改め、九行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(四) さらに、当審においては、本件株式のうち原判決別紙株式目録記載六の株式(以下「野ばら社株式」という。)については、主位的には価額弁償の抗弁を維持しつつ、予備的には価額弁償の金額を支払わなかったときの共有持分に応じた原判決別紙株式分割目録記載のとおりの現物分割を希望し、文藏所有不動産については、主位的には競売による分割を希望しつつ予備的には右(二)のとおり原判決別紙不動産分割案目録記載四のとおりの現物分割を希望し、本件株式のうち原判決別紙株式目録記載一ないし五の株式については控訴人の取得とする分割を希望している。」

第四  争点に対する判断

一  当裁判所は、本件不動産については、別紙不動産分割目録記載のとおり分割し、本件株式については、原判決別紙株式分割目録記載のとおり分割するのが相当であり、被控訴人らの共有持分権に基づく不当利得返還請求は、原判決認容の限度で理由があると判断するものであり、その理由は、次の二のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第三「当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の訂正、付加

1  原判決一四頁二行目の「希望している。」を「希望していたが、当審においては、本件不動産のうち文藏所有不動産について、主位的には競売による分割を希望しつつ、予備的には現物分割を希望し、本件株式については、野ばら社株式につき価額弁償の抗弁を維持しつつ、予備的な現物分割及びその余の株式の取得を希望している。」と、八行目の「一括して分割の対象とすることも許され」を「一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの不動産を各共有者の単独所有とすることも許され」とそれぞれ改める。

2  同一五頁一行目の「判決」の次に「・裁判集民事一六四号二五頁」を加え一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、控訴人は、右最高裁大法廷昭和六二年四月二二日判決の射程距離は、基本的には同種の不動産が共有物分割の対象となっている場合か、または、各不動産の価格(ないしは価格比)が当事者間で争いのないような場合に限られるものというべきであると主張するが、そのように限定的に解さなければならない根拠は存しない。」

3  同二〇頁八行目の「米山鑑定」を「原審米山鑑定」と改め、九行目の「提出された。」の次に「そして、控訴人は、当審において、右不動産鑑定評価書において評価対象とされなかった物件について評価した同不動産鑑定士作成の平成一〇年七月三日付け不動産鑑定評価書(乙八)及び従前の不動産鑑定評価額について時点修正を行った同不動産鑑定士作成の同日付け不動産価格変動意見書(乙九)を追加提出した(原審米山鑑定に当審において提出された右不動産鑑定評価書及び不動産価格変動意見書を併せて「当審米山鑑定」という。)。」を加える。

4  同二〇頁一〇行目の「本件訴訟」を「原審」と、末行から二一頁一行目の「正式の鑑定は全く考えていない。」を「正式の鑑定は全く考えていなかったものであり、控訴人は、当審において改めて鑑定申請をしたが、従前からの訴訟経緯等に照らし採用されなかった。」とそれぞれ改める。

5  同二一頁五行目の「現物分割するのであれば、」の次に「鑑定申請が採用されなった以上、」を加え、同行目の「米山鑑定」を「当審米山鑑定」と改める。

6  同二二頁四行目の「米山鑑定」を「原審米山鑑定」と、六行目の「なり得ない」を「なり得なかった」と改め、七行目の「評価している」の次に「ものであるところ、当審米山鑑定において右の問題点は解消されるに至った」を加え、八行目の「また、米山鑑定は」を「しかし、当審米山鑑定においても、なお以下のような問題点があるといわざるを得ない。すなわち」と改め二三頁三行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「また、乙八の不動産鑑定評価書では、特定の対象不動産の算定価格に個別格差を乗じて他の対象不動産の価格を算定するという鑑定評価手法が採られているが、このような手法は正確性に疑問があるといわざるを得ず、また、対象地の最有効使用方法について現況を誤認した記載もある。さらに、乙九の不動産価格変動意見書では、土地価格の変動率及び建物の減価率により原審米山鑑定の価額に基づいて時点修正を行っているが、原審米山鑑定では、積算価格と収益価格を調整して鑑定評価しているところ、収益価格の基礎となる賃貸収入は、土地価格や建物価格と直接の関連性を有しないから、原審米山鑑定の価額に基づいて土地価格の変動率や建物の減価率により修正減価を行うという手法自体が正確性に疑問があるといわざるを得ず、また、建物の再調達原価の変動が考慮されていない等の問題点もある。」

7  同二三頁四行目の「なお、被告は」から一〇行目の「もっとも」までを「以上のとおり、当審米山鑑定には問題点があるといわざるを得ないところ、これに対し」と改める。

8  同二五頁三行目から五行目までを削除し、八行目の「いわざるを得ない」を「いうべきである」と改める。

9  同二六頁三行目の「競売による分割を希望する前の」を「競売による分割を希望する主位的控訴の趣旨に対する予備的控訴の趣旨に係る現物による」と改める。

10  同二九頁九行目の「別紙物件目録記載二2」を「別紙物件目録記載一4ないし7」と、一〇行目の「同目録記載一6」を「同目録記載二2」とそれぞれ改める。

11  同三三頁三行目から三四頁八行目までを次のとおり改める。

「(二) 次に、張間鑑定によれば、本件不動産の評価額は合計一〇億六四七六万六〇〇〇円であり、そのうち文藏所有不動産の評価額は合計一〇億三四二六万三六〇六円となる(張間鑑定によれば、西ヶ原不動産一の評価額は五億四五〇〇万円(甲五九の一)、西ヶ原不動産二の評価額は一億〇一〇〇万円(甲五九の二)である。仙石原不動産は、張間鑑定では第一対象地と第二対象地とに分けて評価されており、そのうち第一対象地の評価額合計は、合計面積六五〇五・〇七平方メートルで二億七五〇〇万円とされているところ、別紙物件目録記載三5の土地(一一三〇・五七平方メートル)の文藏の持分は一五分の七であるから、同持分相当の面積は五二七・六〇平方メートル(一一三〇・五七平方メートルに一五分の七を乗じる。)となり、同持分面積によった場合の第一対象地の合計面積は五九〇二・一〇平方メートルとなるから、五九〇二・一〇平方メートルを六五〇五・〇七平方メートルで除したものに二億七五〇〇万円を乗じると二億四九五〇万九六一三円となり、これに第二対象地の評価額六五〇〇万円を加えた三億一四五〇万九六一三円が仙石原不動産のうちの文藏所有分の評価額となる(甲五九の三)。稲村不動産の評価額は、六〇四万円である(甲五九の四)。大洞不動産及び大洞台不動産は、張間鑑定では第一対象地B区画に当たるものであって、その評価額は合計六八七〇万円であるが、その合計面積は四万二三八六平方メートルであり、別紙物件目録記載四14の土地(五七九八平方メートル)の文藏の持分は一五分の七であるから、同持分相当の面積は二七〇五・七三平方メートル(五七九八平方メートルに一五分の七を乗じる。)となり、同持分面積によった場合の第一対象地B区画の合計面積は三万九二九三・七三平方メートルとなるから、三万九二九三・七三平方メートルを四万二三八六平方メートルで除したものに六八七〇万円を乗じた六三六八万七九九三円が大洞不動産及び大洞台不動産のうちの文藏所有分の評価額となる(甲五九の四)。折越不動産の評価額は一五五万円(甲五九の四)、梅ヶ島不動産一の評価額二〇八万円(甲五九の五)、梅ヶ島不動産二の評価額は三九万六〇〇〇円(甲五九の六)である。以上合計すると、一〇億三四二六万三六〇六円となる。)。控訴人が文藏からの遺贈により取得できる不動産は、その八分の五に相当する六億四六四一万四七五三円相当の不動産となり、右のように、控訴人に西ヶ原不動産を取得させるとすれば、右不動産の評価額合計は六億四六〇〇万円となることから、控訴人には文藏所有不動産の中からは残り四一万四七五三円相当の不動産を取得させればよいことになる。

しかし、文藏所有不動産のみを現物分割するとすると、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地のうち文藏の一五分の七の持分以外の被控訴人ら三名及び控訴人がミ子から相続した各一五分の二の合計一五分の八の持分については、共有関係がそのまま残ることとなる。しかるに、被控訴人らは、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地全体について、被控訴人らの共有となるよう分割を求めているのであるから、一五分の八の持分について控訴人との共有関係をそのまま残した形での共有物分割は許されないといわざるを得ない。そうすると、仙石原不動産及び大洞台不動産については、その持分割合の多寡に鑑み、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地のうち控訴人がミ子から相続した一五分の二の持分を含めて被控訴人らに持分各三分の一の割合により取得させるのが合理的である。ところで、右の計算によれば、前記仙石原不動産の張間鑑定の第一対象地の合計額二億七五〇〇万円から文藏所有分の評価額二億四九五〇万九六一三円を控除した二五四九万〇三八七円が別紙物件目録記載三5の土地の一五分の八の評価額であり、大洞不動産及び大洞台不動産の評価額合計六八七〇万円から文藏所有分の評価額六三六八万七九九三円を控除した五〇一万二〇〇七円が別紙物件目録記載四14の土地の一五分の八の評価額であるから、その合計額三〇五〇万二三九四円の四分の一である七六二万五五九九円が、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地のうち控訴人がミ子から相続した一五分の二の持分の評価額ということになる。したがって、これを被控訴人らに取得させるものとする以上、前記四一万四七五三円の不足のほかにこの七六二万五五九九円についても調整を図ることが必要になる。

そこで、この調整のために西ヶ原不動産のほかに控訴人に取得させる不動産としては、その価額及び他の不動産と離れ一団の土地として存在している状況等を勘案して、稲村不動産(評価額六〇四万円)、折越不動産(評価額一五五万円)及び梅ヶ島不動産二(評価額三九万六〇〇〇円)とするのが相当と認められる。

そうすると、控訴人が取得する不動産は、西ヶ原不動産一(評価額五億四五〇〇万円)、西ヶ原不動産二(評価額一億〇一〇〇万円)、稲村不動産(評価額六〇四万円)、折越不動産(評価額一五五万円)及び梅ヶ島不動産二(評価額三九万六〇〇〇円)の合計六億五三九八万六〇〇〇円となり、前記の控訴人が文藏からの遺贈により取得できる不動産の価額である六億四六四一万四七五三円を七五七万一二四七円上回ることになるが、他方、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地のうち控訴人がミ子から相続した一五分の二の持分を被控訴人らに取得させることにより、前記のとおり七六二万五五九九円の損失を被ることになるから(以上の計算関係を要約すると別紙計算書記載のとおりである。)、結局、なお五万四三五二円が不足するということになる。しかし、本件不動産の全体の価額及び現物分割がされる場合には当事者双方がその取得を希望している西ヶ原不動産二を控訴人が取得できること等に照らせば、この程度の誤差は許容されるものというべきである。」

12  同三五頁末行の「西ヶ原不動産及び梅ヶ島不動産二」を「西ヶ原不動産、稲村不動産、折越不動産及び梅ヶ島不動産二」と改める。

13  同三七頁三行目の「本件土地はすべて被告名義の登記がなされている」を「本件土地のうち、文藏所有不動産についてはすべて控訴人名義の登記がされており、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地のうち被控訴人ら三名及び控訴人がミ子から相続した各一五分の二の持分についてはその旨の共有登記がなされている」と、九行目の「別紙物件目録」から一〇行目の「所有権移転登記手続請求権を」までを「別紙物件目録記載三1ないし4、6ないし9、四5ないし13及び五2ないし6の各不動産につき、共有物分割を原因とし、各被控訴人の共有持分を各三分の一とする所有権移転登記手続請求権を、また、別紙物件目録記載三5及び四14の各土地のうち控訴人の共有持分各一五分の九につき、共有物分割を原因とし、各被控訴人の共有持分を各一五分の三とする共有持分移転登記手続請求権をそれぞれ」とそれぞれ改める。

14  同四〇頁六行目から四二頁三行目までを次のとおり改める。

「9 控訴人は、野ばら社株式に限定して、民法一〇四一条による価額弁償の抗弁を主張する。しかし、控訴人の右主張は、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に、包括遺贈の目的とされた全財産を構成する特定の財産について、その価額のうち遺留分割合に相当する価額を弁償することによりその特定財産の返還義務を免れることができるという考え方を前提にするものであるが、民法一〇四一条一項の「贈与又は遺贈の目的の価額」とは、その目的とされた財産全体を指すものと解するのが相当であり、贈与又は遺贈を受けた者において任意に選択した特定の財産についての遺留分のみにつき価額による弁償請求権を行使することは、遺留分減殺請求権を行使した者の承諾があるなど特段の事情がない限り許されないものというべきである。けだし、控訴人の右主張のような見解によれば、包括遺贈を受けた者は、包括遺贈の目的とされた全財産についての共有物分割の手続を経ないで、遺留分権利者の意思にかかわらず特定の財産を優先的に取得することができることとなり、遺留分権利者の利益を不当に害することになるからである。そして、本件において、右特段事情があったことについての主張立証もないから、控訴人の右主張は採用することができない。

なお、証拠(甲九の一、二及び甲四〇)によれば、被控訴人ら三名のほか数名の者が第一野ばら社(代表清算人・控訴人)に対して提起した株主総会決議不存在確認等の訴訟(東京地方裁判所平成元年(ワ)第一四八四二号、平成三年(ワ)第一二七二五号)において、文藏が控訴人に遺贈し、これに対して被控訴人らが遺留分減殺請求権を行使した右野ばら社株式について、右と同趣旨の価額弁償の主張がされ、これが総会の定足数及び特別決議要件を満たすか否かを決するための争点となっていたところ右価額弁償の主張が排斥されて被控訴人らが勝訴し、その控訴審(東京高等裁判所平成五年(ネ)第一三四二号)において、同裁判所は、右争点について前記説示と同趣旨の説示の下に、かかる価額弁償は許されないとして第一野ばら社からの控訴を棄却し(同年一一月三〇日判決言渡)、この判決は、平成八年七月一二日に言い渡された最高裁判所の判決(平成六年(オ)第六一八号)においても維持されたことが認められる。」

15  同四三頁二行目の「前記争いのない事実等記載6」を「前記争いのない事実等記載10」と改める。

第五  結論

よって、以上に述べたところに従って原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

一1 所在  東京都北区西ヶ原一丁目

地番  一六番七

地目  宅地

地積  四九二・九五平方メートル

2 所在  東京都北区西ヶ原一丁目

地番  一六番八

地目  宅地

地積  四八〇・八五平方メートル

3 所在  東京都北区西ヶ原一丁目

地番  一六番一一

地目  宅地

地積  四三・七〇平方メートル

4 所在  東京都北区西ヶ原一丁目一六番地七

家屋番号  一六番七の一

種類  倉庫

構造  木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積  七四・三六平方メートル

5 主たる建物の表示

所在  東京都北区西ヶ原一丁目一六番地七

家屋番号  一六番七の二

種類  物置

構造  木造瓦葺平家建

床面積  三九・六六平方メートル

附属建物の表示

符号  5

種類  物置

構造  石造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積  三三・〇五平方メートル

6 所在  東京都北区西ヶ原一丁目一六番地八、一六番地七

家屋番号  一六番八の一

種類  事務所・居宅

構造  鉄骨造陸屋根三階建

床面積  一階 九九・三七平方メートル

二階 九九・三七平方メートル

三階 九九・三七平方メートル

7 所在  東京都北区西ヶ原一丁目一六番地八

家屋番号  一六番八の二

種類  居宅

構造  木造瓦葺二階建

床面積  一階 一〇七・八二平方メートル

二階  七一・九四平方メートル

二1 所在  東京都北区西ヶ原一丁目

地番  一九番一〇

地目  宅地

地積  九四・二四平方メートル

2 所在  東京都北区西ヶ原一丁目一九番地一〇

家屋番号  一九番一〇の二

種類  倉庫・共同住宅

構造  鉄筋コンクリート造陸屋根四階建

床面積 一階 七二・九一平方メートル

二階 六五・二一平方メートル

三階 六五・二一平方メートル

四階 六五・二一平方メートル

三1 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一七一

地目  宅地

地積  九〇二・四七平方メートル

2 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一七二

地目  宅地

地積  八二六・四四平方メートル

3 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一七三

地目  宅地

地積  七九三・三八平方メートル

4 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一七四

地目  宅地

地積  六九四・二一平方メートル

5 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一七五

地目  宅地

地積  一一三〇・五七平方メートル

6 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一七六

地目  牧場

地積  八二六平方メートル

7 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一七七

地目  牧場

地積  一三三二平方メートル

8 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一二七

地目  牧場

地積  五七五平方メートル

9 所在  神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字イタリ

地番  一二四五番一二八

地目  牧場

地積  八二六平方メートル

四1 所在  静岡県熱海市伊豆山字稲村

地番  四〇〇番一

地目  山林

地積  二二四七平方メートル

2 所在  静岡県熱海市伊豆山字稲村

地番  四〇七番一

地目  山林

地積  一二四六平方メートル

3 所在  静岡県熱海市伊豆山字稲村

地番  四〇七番四

地目  山林

地積  二〇二六平方メートル

4 所在  静岡県熱海市伊豆山字稲村

地番  四〇八番四

地目  山林

地積  四〇六平方メートル

5 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞

地番  一一四二番二

地目  山林

地積  二六五四平方メートル

6 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞

地番  一一四二番四

地目  山林

地積  二〇五九平方メートル

7 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞

地番  一一四二番五

地目  山林

地積  一万八七七六平方メートル

8 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞台

地番  一一七四番九七

地目  原野

地積  七〇四平方メートル

9 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞台

地番  一一七四番一〇五

地目  原野

地積  一九八〇平方メートル

10 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞台

地番  一一七四番一〇六

地目  原野

地積  一九四七平方メートル

11 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞台

地番  一一七四番一〇七

地目  原野

地積  一八三四平方メートル

12 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞台

地番  一一七四番一〇八

地目  原野

地積  五九八三平方メートル

13 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞台

地番  一一七四番一〇九

地目  原野

地積  六五一平方メートル

14 所在  静岡県熱海市伊豆山字大洞台

地番  一一七四番一九七

地目  原野

地積  五七九八平方メートル

15 所在  静岡県熱海市伊豆山字折越

地番  七七四番一

地目  山林

地積  二六四平方メートル

16 所在  静岡県熱海市伊豆山字折越

地番  七八二番一

地目  山林

地積  七九三平方メートル

17 所在  静岡県熱海市伊豆山字折越

地番  七八二番二

地目  山林

地積  二三四平方メートル

五1 所在  静岡県静岡市梅ヶ島字花崎

地番  三〇五二番

地目  宅地

地積  三六三・六三平方メートル

2 所在  静岡県静岡市梅ヶ島字大ザレ

地番  三一六一番

地目  保安林

地積  七八四一平方メートル

3 所在  静岡県静岡市梅ヶ島字大ザレ

地番  三一六二番

地目  山林

地積  一万三三〇二平方メートル

4 所在  静岡県静岡市梅ヶ島字大ザレ

地番  三一六八番

地目  保安林

地積  六一五八平方メートル

5 所在  静岡県静岡市梅ヶ島字大ザレ

地番  三一七〇番

地目  保安林

地積  六三二三平方メートル

6 所在  静岡県静岡市梅ヶ島字大ザレ

地番  三一七一番

地目  保安林

地積  一万五九〇〇平方メートル

不動産分割目録

一 被控訴人ら三名が持分各三分の一の割合により取得する不動産

別紙物件目録記載三、四5ないし14及び五2ないし6の各不動産

二 控訴人が取得する不動産

別紙物件目録記載一、二、四1ないし4、15ないし17及び五1

〈省略〉

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